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値上げ交渉は交渉の前に決まっている|取引先ごとに準備を変える進め方

  • BtoB
監修
中尾 大也
株式会社XtoX 代表取締役社長 中尾 大也

大阪府出身。幼少期に祖父が経営する建設会社の廃業を経験し、企業存続と経営の本質に関心を持つ。新卒入社したベンチャー企業では初月にトップマーケティング賞を受賞。その後、大阪支社のコンサルティング責任者として事業拡大を牽引し、社員40名から300名規模への成長と東証グロース上場に貢献。上場後はグループ企業の執行役員を歴任。2023年に株式会社XtoXを創業し、中小企業のセールス・マーケティング支援に従事。

大阪府出身。幼少期に祖父が経営する建設会社の廃業を経験し、企業存続と経営の本質に関心を持つ。新卒入社したベンチャー企業では初月にトップマーケティング賞を受賞。その後、大阪支社のコンサルティング責任者として事業拡大を牽引し、社員40名から300名規模への成長と東証グロース上場に貢献。上場後はグループ企業の執行役員を歴任。2023年に株式会社XtoXを創業し、中小企業のセールス・マーケティング支援に従事。

「長い付き合いの取引先ほど言い出しにくい」。値上げの成否は交渉の席ではなく、それまでの関係と準備で決まります。取引先ごとに打ち手を変える進め方と伝える段取りを、600社以上の戦略設計を行うXtoXが解説します。

・目次

    コストは上がっているのに、価格を据え置いたまま何年も経っています。値上げの必要性は分かっていても、いざ切り出すとなると手が止まる——多くの会社が抱えている状態です。

    ご相談でうかがうのも、決まってこうした声です。

    ・ 「長い付き合いの取引先ほど、言い出しにくい」

    ・ 「切り出したら、取引そのものを切られるのではないか」

    ・ 「一度断られて、それきり話を戻せていない」

    先に結論をお伝えします。値上げの成否は、交渉の席で決まりません。切り出す前の段階で、ほぼ決着がついています。相手がこちらをどう見ているか、そして成果を数字で返せているか。この2つが整っていない状態で交渉に臨むと、話は条件の押し引きになり、たいてい負けます。

    以下では、交渉術ではなく、値上げが通る状態をどう作るかを整理します。製造業の原価交渉に限らず、サービスや無形の商材でも使える形にしました。

    言い出しにくさの正体

    まず、言い出しにくさがどこから来ているのかを分けておきます。ここを混同すると、対策がずれます。

    ひとつは、値上げを申し訳ないことだと感じている心理です。長く同じ価格で取引してきたぶん、変更を持ちかけることが裏切りのように思えてしまいます。ただ、コストが上がっているのに価格を据え置けば、利益は削れます。そのまま続ければ、いずれ品質か体制のどちらかに影響が出て、結果として相手にも迷惑がかかります。値上げを避けることが誠実だとは限りません。

    もうひとつは、断られる不安です。こちらは値上げの根拠を用意していても、相手にとっては予定外の支出です。担当者の一存では決められず、社内で説明する手間も発生します。つまり相手にとっては、金額の問題であると同時に、面倒な仕事が増えるという問題でもあります。

    この2つが見えると、やるべきことがはっきりします。自社の側では後ろめたさを手放すこと、相手の側では社内で説明しやすい状態を作ることです。

    相手がこちらをどう見ているか

    値上げの通りやすさを決める最大の要素は、取引先との関係の段階です。同じ内容の値上げでも、相手の受け取り方はまったく変わります。

    私たちは取引先との関係を、疑念・様子見・委任・相談・ファンという段階で捉えています。値上げの文脈では、委任と相談のあいだの線が決定的に効きます。

    関係の段階と、値上げの受け取られ方
    段階 値上げをどう受け取られるか 先にやるべきこと
    様子見 まだ実力を測られている段階。値上げは早すぎる 約束したことをやりきり、成果を出す
    委任 一方的な条件変更として扱われる。比較検討が始まる 成果を数字で示し、相談される関係に上げる
    相談 一緒に考える話になる。社内の事情も教えてもらえる 早い段階で見通しを共有しておく
    ファン 継続を前提に、条件の調整として受け止められる 長期の関係を前提に設計を示す

    委任の段階、つまり「これをお願いします」という依頼だけが来ている関係で値上げを切り出すと、相手は当然のように他社との比較を始めます。こちらは作業の委託先として見られているので、同じ作業がより安く手に入るなら、そちらを選ぶのが合理的だからです。

    一方、相談が来る関係になっていれば、値上げは「どう折り合いをつけるか」という共同の課題になります。相手の予算の事情や、社内でいつ話を通せばよいかまで教えてもらえることもあります。段階の見分け方と上げ方は既存顧客の深耕で詳しく扱っています。

    成果を数字で返せているか確かめる

    段階を上げる前提になるのが、成果を数字で示せているかどうかです。ここが値上げの土台になります。まず、その材料が手元にあるかを確かめてください。

    値上げを求めるとき、多くの会社はコストが上がった話をします。原材料が上がった、人件費が上がった、これは事実です。ただ、相手からすれば「そちらの事情」でしかありません。自社のコスト構造は、相手が支払う理由にはならないのです。

    支払う理由になるのは、こちらが相手に何をもたらしているかです。取引開始前と現在で、相手の何がどう変わったのかという数字です。これが手元にあると、話の性質が変わります。コストの説明は「値上げの理由」ですが、成果の数字は「払い続ける理由」です。両方を並べて初めて、相手は社内で説明できます。

    私たちの行動基準には「事実と解釈を分ける」という一条があります。値上げの場面でも同じで、コストが何%上がったかは事実、その分をいただきたいという主張は解釈です。混ぜて話すと、相手は解釈の部分に反応します。事実を先に置き、その上で提案を出す順番にしてください。

    XtoXの現場から

    私たち自身、支援の条件を見直そうとして失敗したことがあります。支援の範囲が当初の想定を超えて広がっていたため、次の期間から条件を改めたいとお伝えしました。ところが先方の反応は芳しくありませんでした。振り返ると、こちらは作業量が増えた話ばかりしていて、その半年で先方の数字がどう動いたかを整理して出していませんでした。あとから成果を並べ直してお持ちしたところ、話は落ち着きました。順番が逆だったのです。相手が知りたいのは、こちらの負担ではなく、払う価値があるかどうかでした。

    一律で上げない

    実務的な注意点として、全取引先に同じ率を求めるやり方は避けてください。

    理由は2つあります。まず、取引先ごとに関係の段階も、こちらが提供している価値も違います。一律の通知は、その違いを無視した扱いになり、関係の良い相手ほど不満が残ります。もうひとつは、機会損失です。もっと上げられたはずの取引まで同じ率で止めてしまうことになります。

    取引先を分けて考えてください。関係が深く、こちらの価値が伝わっている相手には、しっかりとした改定をお願いします。関係が浅く、価格だけで選ばれている相手には、条件を絞る形や提供範囲を見直す形を提案します。相手によって打ち手を変えるほうが、全体では通りやすくなります。

    なお、どうしても受け入れられない取引先が出てきた場合、そこで取引が終わることもあります。厳しい判断ですが、赤字のまま続けるより健全な場合もあります。1社あたりの利益を確認し、続ける意味があるかを冷静に見てください。

    伝える場と時期を選ぶ

    伝え方にも段取りがあります。避けたいのは、突然の通知です。書面だけを送りつける形は、相手に検討の材料を与えず、感情的な反発を招きます。

    私たちがクライアント支援で使っているのは、更新の時期を活かす方法です。契約や取引の区切りの2か月ほど前に振り返りの場を設け、この期間の成果を整理し、そのうえで次の期間の条件を提示します。相手にとっては、値上げの是非を突きつけられる場ではなく、次の計画を検討する場になります。

    順番としては、まず口頭で見通しを伝え、そのあとに書面を出します。「来期については条件のご相談をさせていただきたく」と一度伝えておけば、相手も社内で心づもりができます。書面が届いた時点で初めて知る形にすると、担当者は社内で立場を失います。

    加えて、相手の社内の事情も確認してください。予算を組む時期や、決裁が必要な金額の区切りを聞いておくと、いつ話を出せばよいかが決まります。担当者が社内で説明する場面まで想定した支援については、稟議が通らない本当の理由にまとめています。

    断られたときにどうするか

    断られる場合もあります。ここでの引き方が、次につながるかどうかを分けます。

    まず確認したいのは、断りの理由です。予算の枠がないのか、値上げ幅が大きすぎるのか、そもそも価値を感じていないのか——理由が違えば次の手も変わります。予算の時期の問題なら、次の予算編成に合わせて再提案すればよいだけです。価値を感じていないなら、値段の話をする前に、提供しているものを見直す必要があります。

    価格を理由に断られたとき、その言葉をそのまま受け取らないことも大切です。断りやすい理由として価格が使われることは珍しくありません。この見極め方は失注理由の聞き方で扱った考え方がそのまま使えます。

    それから、金額を下げる以外の選択肢も用意しておいてください。提供する範囲を絞る、対応の頻度を変える、支払いの時期を調整する、といった形です。値段だけを動かす交渉にすると、下げるか決裂するかの二択になります。条件の組み合わせを変えられれば、着地点は増えます。

    XtoXの現場から

    支援先で値上げの相談を受けたとき、まず取引先ごとの利益を出していただいたことがあります。感覚では「大口だから大事にすべき」と思われていた取引先が、実は手離れが悪く、利益率は最も低いという結果が出ました。値上げの話をする前に、この事実が見えていることが重要でした。結果として、その取引先には範囲を絞る提案をし、別の取引先には正面から改定をお願いする形になりました。全部を同じように扱っていたら、どちらもうまくいかなかったはずです。

    制度や公的な支援の扱い

    国や自治体も、コスト上昇分を価格に反映しやすくするための取り組みを進めています。中小企業庁は価格交渉を促す期間を設けており、相談窓口や指針の整備も行われています。

    こうした動きは、値上げの相談が特別なことではないという後押しになります。ただし、制度の内容や名称、対象は見直されることがあるため、実際に活用する際は中小企業庁や公正取引委員会などの公式情報で最新の内容をご確認ください。本記事では、具体的な制度名や要件の断定は避けています。

    実務で押さえておきたいのは、社会全体がこの方向に動いているという事実です。値上げの相談を持ちかけること自体に、後ろめたさを感じる必要はありません。

    値上げ交渉のチェックリスト

    値上げを切り出す前のチェックリスト(10項目)
    □ 取引先ごとの利益を出してある
    □ 取引先ごとに関係の段階を書き出してある
    □ 取引開始前と現在で、相手の何が変わったかを数字にした
    □ コストの上昇分を、事実として整理してある
    □ 一律ではなく、相手ごとに打ち手を変えている
    □ 相手の予算編成の時期を確認した
    □ 書面の前に、口頭で見通しを伝える段取りにしてある
    □ 担当者が社内で説明できる材料を用意した
    □ 金額以外の調整案(範囲・頻度・支払時期)を用意した
    □ 受け入れられない場合の判断基準を決めてある

    よくある質問

    値上げ幅はどう決めればよいですか

    コストの上昇分を計算するのが出発点ですが、それだけで決めないでください。取引先ごとの利益率を見て、赤字に近い取引は幅を大きく、十分に利益が出ている取引は据え置く判断もあります。また、一度で必要な水準まで上げるか、段階的に進めるかも選べます。相手の受け入れやすさと、自社が耐えられる期間を見て決めてください。

    書面と対面のどちらで伝えるべきですか

    両方です。まず対面か電話で見通しを伝え、そのあとに書面を出します。口頭だけだと社内で回せませんし、書面だけだと感情的な反発を招きます。書面には、改定の内容と時期に加えて、担当者が社内で説明できる材料を添えてください。

    長年据え置いた相手への切り出し方は

    据え置いてきた期間そのものを材料にしてください。「◯年間、同じ条件でお取引いただいてきました」と事実を置くと、その間に何も求めてこなかったことが伝わります。そのうえで、この期間の成果と現在のコスト状況を並べます。長く据え置いた事実は、交渉の弱点ではなく、誠実さの証明として使えます。

    担当者が味方になってくれません

    担当者にとって、値上げを社内に通すのは負担の大きい仕事です。通しても評価されず、失敗すれば責任を問われます。だから、担当者の手間を減らすことに徹してください。説明用の資料を用意し、想定される質問への答えも渡してください。それでも動かない場合は、関係が委任の段階に留まっている可能性があります。値上げより先に、関係を上げる取り組みが必要です。

    まとめ:値上げは交渉の前に決まっている

    値上げが通るかどうかは、交渉術ではなく、それまでの関係と準備で決まります。依頼だけが来る関係では条件変更として比較検討が始まり、相談が来る関係では一緒に考える話になります。

    だから順番はこうなります。取引先ごとの利益と関係の段階を書き出し、成果を数字で整理し、相手ごとに打ち手を変えて、更新の時期に合わせて口頭から伝えます。ここまでやってから、初めて金額の話をします。

    まずは取引先の一覧を開いて、1社ずつ利益と関係の段階を書き込んでみてください。値上げを切り出す順番が、そこで見えてきます。

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